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REPORT

2023

06

/20

カンファレンスレポート『まちづくりから描くスポーツビジネスの可能性』

#DeNA SPORTS BUSINESS CONFERENCE

#まちづくり

スポーツ、スタジアム、アリーナがもたらす社会的価値

行政視点からみるプロスポーツチームを活かした、まちづくりの可能性

DeNA SPORTS GROUPが取組むまちづくり

桂田様×岡村トークセッション

スポーツ、スタジアム、アリーナがもたらす社会的価値

まちづくり、地域活性化の核となるスタジアムやアリーナの新設やプロスポーツクラブによる施設の一体化経営が進んでいます。「DeNA SPORTS BUSINESS CONFERENCE2023」、2つめのセッションでは『まちづくりから描くスポーツビジネスの可能性』というテーマのもと桂田 隆行様(株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 課長)をお招きしました。川崎市の福田 紀彦市長のビデオメッセージや岡村 信悟(株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO)との対談も通じ、DeNA SPORTS GROUPのまちづくりへの考えや挑戦をご紹介するとともに、スタジアム・アリーナを中心としたまちづくりの全体動向、地域や暮らしに及ぼす影響、そこから拡がる周辺ビジネスの可能性について行政の視点も交えながら考察を深めるセッションとなりました。

桂田 隆行様(株式会社日本政策投資銀行 地域調査部 課長)

セッション冒頭では桂田 隆行様にご登壇いただき、日本政策投資銀行の取組みや全国のスタジアム・アリーナ構想などを紹介いただきました。

・日本のスポーツ産業のあゆみ

国内でスポーツを産業とみなし、成長産業化に向けた話が始まったのは2016年のことでした。「日本再興戦略2016」における「官民戦略プロジェクト10」ではプロジェクトの一つに「スポーツの成長産業化」が挙げられ、政府からもスポーツを産業としてみてほしいというメッセージが発信されました。その中で具体的な目標の一つに「スタジアム・アリーナ改革」があり、スポーツ分野の中でスタジアム・アリーナとそれを活かしたまちづくりについての議論が始まりました。

全国のスタジアム・アリーナ構想も2016年頃は恐らく20件程度でしたが、今や90件程度に増えています。全国でスタジアム・アリーナを地域の交流拠点にすることを目指し、まちづくりのコアコンテンツにしようといった想いをもった事業者も増えてきています。2016年の「日本再興戦略2016」、「官民戦略プロジェクト10」ではスタジアム・アリーナをまちづくりにおいてコストセンターからプロフィットセンターになることを目指すことが示されました。そのため2016年以降はその考え方を目指す動きが始まりましたが、スタジアム・アリーナはそう簡単にはプロフィットセンターにはなれませんでした。

そしてその次の動きとして、単にプロフィットセンターだけを目指すのではなく、地域や社会課題解決のアイコンとして、そのエリアの行政課題の解決ツールとして、スタジアム・アリーナを活用しようという考え方が広がりました。この3年ぐらいは社会的価値を可視化・定量化しようとする動き、そして地域の住民、企業、行政が手を組んでスタジアム・アリーナを起点とした新たなまちづくりや事業共創といったところから、スタジア・ムアリーナの価値をだしていこうという動きが非常に活発でトレンドになってきています。

・地域社会の課題解決や社会的価値の実証・実装のフィールドへ

さらにこの先どうなっていくかを予想させていただくと、地域の事業者、住民の方々の実装・実験、社会実装など、スタジアム・アリーナを皆様の取組みの一つのフィールドに使おうといった動きが社会課題解決のさらに一歩進んだバージョンとして出てくると思います。そしてその先にスタジアム・アリーナがビジネス・産業として本来あるべき姿、プロフィットセンターとなる、独立採算で自立した姿を描く時が来るであろうと思っています。地域社会の課題解決や社会的価値を出していく、その上で地域の実証・実装のフィールドにしていこうという時代が来たと思います。

私ども日本政策投資銀行は、その流れに沿ってスタジアム・アリーナ、まちづくりの手順を解説するような手引書、「スマート・ベニューハンドブック」や、スポーツの価値算定モデル調査レポートを出させていただきました。またこの後、川崎市福田市長にVTRで出演いただきますが、弊行でも川崎フロンターレと一緒に等々力陸上競技場をケーススタディとした社会的価値の可視化・定量化調査を出させていただきました。チケット仲介大手、ぴあ様とはスポーツを含む集客エンタメ産業の社会的価値についての共同研究を出させていただきました。次は社会実装、企業の実証実験、その先の自立運営もお手伝いできるようなフィールドに入りたいと思っております。

スタジアム・アリーナの段階論として、つい10年ほど前までは単に施設を公共が貸すだけのハコでしたが、今はスタジアム・アリーナを観るハコとして、運営事業として盛りたてて複合施設化を目指すところに来つつあると思います。そして、その先としては様々な事業者が日常の賑わいを作ったり、スタジアム・アリーナを核としたエリアマネジメントに取組むといった動きが全国にさらに拡がっていけばと願っております。

行政視点からみるプロスポーツチームを活かした、まちづくりの可能性

続いて神奈川県川崎市 福田 紀彦市長にVTRでご出演いただき、様々な角度から行政の視点でまちづくりにおけるスポーツの存在意義や展望、スポーツを通じたまちづくりに込める思いについてお話いただきました。

福田 紀彦市長(神奈川県川崎市) ※VTRご出演

・川崎市について

川崎市は東京の南と横浜の北にあり大きな都市に挟まれています。非常に細長い地形で7つの行政区が横につながっています。政令指定都市は全国に20都市ありますが、その中で平均年齢が最も若く、出生率も最も高い、人口は6番目という都市です。

一番南は港がある海沿いの場所から、北部は農地、山の丘陵部と非常に多様性に満ちたエリアです。昔は臨海部の工業地帯で発展してきたまちだったので、海側からだんだん住宅地が形成されてきた100年間ぐらいの歴史があります。現在市内に住んでいるのは、東京、横浜、あるいは川崎市内で働いている方が多いのですが、これは交通の利便性が高いところが魅力に感じられ、選ばれているものだと思います。

この約20年は文化に非常に力を入れており、音楽やスポーツなど多彩な文化が今、花開き、生活の中でも感じられてきており、そのような魅力ができてきていると思います。

・川崎市を拠点とするプロスポーツチームの存在意義

昔はプロスポーツが根付かないまちと川崎は言われてきましたが、そのような中で川崎フロンターレが今から 27年前に誕生し、地域化していくような活動をして、地域にとってスポーツクラブがどういった存在なのかがわかってきました。それとともに川崎ブレイブサンダース、アメリカンフットボール、バレーボールもどんどん地域とのつながりをつくり、みんなが応援するという非常に好循環が生まれてきました。

・プロスポーツチームがもたらすシビックプライド

先ほども申し上げたように川崎市の地形は細長いため、「川崎の象徴するものは何ですか?」と言われると実は住んでいるエリアによってイメージが大きく違うという特徴があります。そのような中、川崎ブレイブサンダースや川崎フロンターレといったプロスポーツチームができたことによって、川崎市民が一つになるという瞬間を1番最初に感じることができたと思っています。プロスポーツチームが私たちのシンボルとなり、そこでの意識の一体感、私たちのチームが活躍することによるいわゆるシビックプライドが醸成されてきたというように思います。

・川崎市がプロスポーツチームの活動を支援する意義

川崎市には市民文化局に市民スポーツ室という部署があり、川崎ブレイブサンダース担当、川崎フロンターレ担当など、それぞれの職員が常にコミュニケーションをとっていることから、一緒にまちづくりをしようという機運が芽生えているのだと思います。川崎市が伝えたいことでも実は市民に伝えきれていないことを川崎ブレイブサンダースが伝えてくれていたり、川崎ブレイブサンダースがやりたいことが実は私たちのまちを賑わせていたりするなど、スポーツチームの活動にはまちを元気にするという効果があり、非常に好循環が生まれていると思います。

地域にスポーツチームがあることにより、試合の翌朝、「勝った」、「負けた」、「◯◯選手の活躍がよかった」、といったスポーツの話題で勇気をもらっていたり、次の試合に向けて気分が盛り上がっていくなど、生活リズムにハリが出ます。スポーツの力ってこんなにあるのかと私も驚くほど感じています。

・子どもたちのためのスポーツ支援の取組み

川崎市はスポーツできる場所がたくさんあるエリアではありません。大都市の中で最も小さい都市で人口が6番目という人口密集地域なので、スポーツ環境としては非常に恵まれていないと思います。そのような中で地域のスポーツチームが人材育成に力を入れてきましたが、その中でもプロスポーツチームの存在はこの20年間とても大きく、その積み重ねにより世界で活躍する選手も出てきています。川崎から世界に直結すること、川崎でトレーニングしてプロを目指すことは実はそんなに遠い夢ではないことを子どもたちも体感していると思います。

・幅広いスポーツジャンルで若者文化を支援する背景

川崎市は市民の平均年齢が43.7歳と大都市の中で最も若く、これからもこの活力を維持したい、川崎市は若者が挑戦する場所でありたい、という思いから、「世界に向けて挑戦したいと思ったら川崎で挑戦しよう」という子どもたちを応援したいと考えています。川崎はもともと若者文化、ストリートカルチャー、ブレイキンの聖地とも言われ、これらを積極的に応援していますが、取ってつけた話ではなく、もともとあるものをうまく活かそうということで取り上げてきたものとなります。

・川崎市とスポーツ産業の今後の展望

スポーツの力が個人、まちの大きな活力になっていることを実感していますが、その産業の裾野というのは限定的で余力はまだあると思っています。そのことを私たちのまちでも証明してきましたし、これからも証明し続けるだろうと思っています。単なるスポーツ、エンターテインメントということでなく、より親和性や領域が広がっており、プロスポーツチームが”MY チーム”、”OUR チーム”、”自分たちのチーム”になってきていると思います。それほどサッカーやバスケットボールに興味のなかった人たちまで、実は大きく巻き込んできていて、小さい子どもから高齢者までアリーナ、スタジアムに来場されており、非常に広がりを感じています。そしてまだまだエリア、年代的にも領域が拡がる余力もあると思います。

・「まちづくりのパートナー」、スポーツを通じたまちづくりに込める思い

スポーツという分野はスポーツ単体ではなく、「まちづくりのパートナー」という意識が非常に強いと思います。”スポーツチーム×◯◯”というものがたくさんあり、例えば地元の食品メーカーなど本当にさまざまな業種の方たちが、実はサポーターとして始まり、それがチームのスポンサーに変わるといった動きになっています。色々な取組がまちを良くして活気が出る、かつビジネスも色々な形の組み合わせで成立していることは好循環でしかありません。スポーツを単体で見るのではなく、「スポーツによるまちづくり」、「まちづくりのパートナー」だと思うと意外と色々な結びつきが出てくるということを日々発見しています。そういった意味では、どこのまちでも取組むことができると思います。ぜひ地域の方々に”MY チーム”、”OUR チーム”というものを作ってもらうと、これは好循環のスタートになると思います。川崎市としてプロスポーツチームを応援することというのはとても意味のあることだと思っています。

DeNA SPORTS GROUPが取組むまちづくり

セッションの最後に岡村 信悟(株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO)が登壇し、現在のまちづくりの取組みを紹介しました。

岡村 信悟 (株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役社長兼CEO)

私たちDeNAはすでに3つのプロスポーツチームをあえて神奈川で手掛けています。プロ野球・横浜DeNAベイスターズから始まり、プロバスケットボール・川崎ブレイブサンダース、そして今年2月にはプロサッカー・FC相模原の経営を発表させていただきました。

構想としては昔風の言い方で、「さがみのくにづくり」です。(正確にいうと横浜と川崎は武蔵です。)スポーツコンテンツを中心に地域のソフトインフラを活かしながら「スポーツで”ひと”と”まち”を元気にする」、という構想です。私たちDeNAが取組むスポーツビジネスの形を、「スポーツの力で”ひと”と”まち”を元気にする」という観点で、プロスポーツなのでしっかりまずはそのコンテンツで収益を上げる、そしてプロスポーツ自体がその地域のシビックプライドとして地域の方々に支えられ受け入れられる、そしてそれがさらにスタジアム・アリーナとその周辺に広がり、まち・地域を活性化していく。これを横浜市、川崎市、相模原市、神奈川県910 万人の人口のうち600 万人を超える人口がいらっしゃる政令指定都市の中で、まさに「さがみのくにづくり」として形にしていこうとしています。

プロスポーツは公共財だと思っています。横浜スタジアムも横浜市のもので、私たちがまさに公共財、公共施設を運営するということで官民連携、官民一体となっての地域づくりに取組んでいます。市長はじめ行政の皆様にしっかり支えられ、むしろ積極的に参画いただきながら、例えば「I ☆(LOVE) YOKOHAMA協定」や川崎市と川崎ブレイブサンダースによるSDGs協定など、しっかりタッグを組んで、そしてある部分では私たち民が官も主導できるような形でまちづくりにコミットしていく。そして、いわゆる公共の地場を一緒になって作っていきながら、「スポーツで”ひと”と”まち”を元気にする」、「さがみのくにづくり」に取組んでまいりたいと思っています。

そして私たちの取組みはプロスポーツチームの運営だけではなくて、例えば横浜市の旧市庁舎街区の活用事業や川崎におけるカワサキ文化会館など、まちづくりとまちの骨格そのものを作り替えていくというところにもチャレンジしています

桂田様×岡村トークセッション

-桂田様

神奈川県でスポーツを起点とするまちづくり、スポーツビジネスに取組んで良かった点、気付き、地域との向き合いにおいて重視している点は?

-岡村

私自身の体験となりますが、行政からDeNAにきて初めて取組んだのがスポーツ事業でした。スポーツ事業は公的要素も非常に強く公共財ともいえます。そこで重視したことは私たち民間企業が責任をもってプロスポーツという大切な地域のコンテンツをお預かりする以上、しっかりビジネスとして成立させなければいけないということです。

私がベイスターズに参画する時、既にベイスターズは黒字化に向けてかなり積み上げがあり、球場の稼働率も当時は98%を超えるぐらいあり完全にビジネスとして成り立つところまできていました。そしてより付加価値をつけていくために、地域の人々とのつながりの中で、様々なステークホルダーがWinWinで、私たちだけではなく地元の企業さんがしっかりとビジネスを成立させていく、そしてファンの方々も大きな喜びを得るという好循環を作り出すというモデルをベイスターズ、横浜スタジアムの運営で学ぶことができました。そして運がいいことに川崎ブレイブサンダースで川崎市との出会いがあり、SC相模原で相模原市との出会いがあり、そこから様々な価値がこれからも生まれてくると考えています。

-桂田様

スポーツをビジネスとして成り立たせ、そしてビジネスにとどまらず、地域とのつながりを作っていくことを実現させていくなかでの苦労や突破点はありましたか?

-岡村

横浜スタジアムではコロナ禍以前に稼働率が98%を超える中でチケット販売という観点でキャパシティを拡大する、横浜スタジアムの増設という選択肢をしました。ところが誰も予想しないコロナ禍となり、球場は拡げたものの無観客という状態も強いられました。無観客の時代は当然、一転して黒字ではなくなり、ようやくそこから脱しつつありますが、我々の学びとしては、やはり1年、単年度でしっかりビジネス成立させていくことは当然ながら、中長期でも様々なリスクを考えながら、そこにも耐えうる形で、もう少し厚みのあるビジネスにしなければいけないと思っています。興行だけではなく、その周辺に教育関係やヘルスケア関係など貪欲にビジネス機会を作っていくこと自体がソフトインフラで地域を活性化することにつながります。さらにスポーツを起点としたスマートシティ、持続可能な都市の再構築にIT企業として様々なビジネスサービスを適応させていく貪欲さも必要と思ってます。

-桂田様

出発点はスポーツビジネス単体でしたが、そこに様々なビジネスアセットや地域資源を乗せていくことで、さらにスポーツビジネスとしても自走していくということでしょうか。

-岡村

やはりスポーツというのは素晴らしい文化だと思うので、結局は今の時代なりの文化を創造して、地域、世の中の人々にとって不可欠なものにしていくことだと思っています。スポーツは日本では19世紀以降に導入され、それが文化としてだいぶ定着してきたと思います。その文化づくりを支える担い手として仮にDeNAという企業が必要とされるならば、その地域もしくはそのプロスポーツとともに私たちも存続していく、好循環の中で私たち自身もプレーヤーとして引き続き皆様に価値を提供したいと思っています。

-桂田様

神奈川県という地域においてこの先、スポーツビジネスの事業戦略はどのように向かっていくのでしょうか?

-岡村

最近よくWeb3.0と言われますが、それはインターネットの自律分散だと思います。Web3.0の手前が集中型ということになりますが、自律か分散か、集中かといった二元論の中でどちらかに偏らないようにしたいと思っています。私たちはインターネットを通じて全世界グローバルにバーチャルでサービスを提供しています。ところが神奈川という地域においては、プロスポーツというアセットを使いながら目に見える地域の方々に向けて様々に取組んでいます。これを振り子のように世の中の動きに即応しながら、地域、もしくは世界の方々に価値を提供することでスポーツ事業の広がりが見いだせると思っています。規模の大きさも大事ですけれども、今までにないものを届け続けられるような取組みをDeNAのスポーツ事業で実現したいです。引き続き多くの方々と一緒にその辺りのことを考えていきたいと思っています。

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