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REPORT

2023

06

/20

カンファレンスレポート『DSGが取組むサステナブルなスポーツ経営』

#DeNA SPORTS BUSINESS CONFERENCE

#川崎ブレイブサンダース

#横浜DeNAベイスターズ

#SC相模原

DeNA SPORTS GROUPの変遷

DSG各球団の事業運営/スポーツ経営の特長

ラップアップ:代表者トークセッション

質疑応答

DeNA SPORTS GROUPは横浜DeNAベイスターズに始まり、現在はプロバスケットボールクラブの川崎ブレイブサンダース、プロサッカークラブのSC相模原と神奈川県内3つの政令指定都市をホームタウンとするスポーツ事業に展開を拡大させています。「DeNA SPORTS BUSINESS CONFERENCE2023」、3つめのセッションではDeNA SPORTS GROUPの持続的かつ自立的な経営のありかた、目指す姿をテーマに各球団の代表者が登壇しました。

DeNA SPORTS GROUPの変遷

對馬 誠英(株式会社ディー・エヌ・エー スポーツ・スマートシティ事業本部 本部長)

私たちDeNAは2011年にプロ野球界に参入し、横浜DeNAベイスターズが誕生しました。その後、本拠地である横浜スタジアムを2016年に友好的TOBにて取得し、一体経営に参画し始めております。そして競技・地域の幅を広げ2018年から川崎ブレイブサンダース、2021年からSC相模原に経営参画しました。現状は神奈川県における横浜市・川崎市・相模原市、3つの政令指定都市でスポーツ事業を展開しています。

最初のステップとしてベイスターズでのトライ&エラーが私たちの全ての礎になっております。そこで得たノウハウ、人材を育成してきたことを基盤にしながら、バスケットボール、サッカーへと展開し、それぞれの事業を垂直に立ち上げるということをやってまいりました。また競技地域、事業フェーズが異なれば、そこで得られるノウハウも異なってまいります。それぞれで得られた知見を横断組織で吸い上げ、体系化し、それぞれのクラブに戻して全体を拡大するということにチャレンジをしてまいりました。そして現在のフェーズとしては、それぞれのアセットを掛け合わせながら、新しい付加価値を創出することにチャレンジをしているところです。

私は前職も含めてさまざまな事業に触れてきましたが、スポーツチームの経営は非常に難しい部類に入ると思っています。それはやはり順位がついて回るビジネスなので、チームが勝つということと、事業として成立させるということのバランスが非常に難しいと思っています。またここ数年はコロナ禍という変数が加わり、経営の難易度は非常に上がっていると認識をしています。そのような状況において私たちは複数のスポーツチームを保有し、さまざまな知見が得られ、その基盤を使いながら経営しています。そのような横断の取組みを横串を通してやっているキーマンに今日はプレゼンをしてもらいます。

簡単に3人の紹介をさせていただきます。木村 洋太(株式会社横浜DeNAベイスターズ 代表取締役社長)はベイスターズに経営参画した初期から従事し、さまざまな経験を重ね一昨年より社長に就任しました。元沢 伸夫(株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 代表取締役社長)もベイスターズの事業責任者を務め、川崎ブレイブサンダースに経営参画したタイミングで異動し5年、社長としてバスケットボール事業を牽引してきました。また、西谷 義久(株式会社スポーツクラブ相模原 代表取締役社長)も古くからスポーツ事業の全体戦略に関わりながら川崎ブレイブサンダース・SC相模原の事業立ち上げに深く関わってきたメンバーです。では、ここから木村さんにバトンタッチをいたします。

DSG各球団の事業運営/スポーツ経営の特長

1.木村 洋太(株式会社横浜DeNAベイスターズ 代表取締役社長)

この10年間、多くのDeNAグループのメンバーがベイスターズの成長に携わってきましたが、本日は私が代表してご説明させていただきます。

まず最初にベイスターズのビジネスとしてのミッションについてです。ベイスターズがプロ野球球団として発足したのは1950年のシーズン、大洋漁業さん、現在のマルハニチロさんの実業団チーム「大洋ホエールズ」として山口県下関にて設立されました。その後、3年ほどで大阪に移り、1955年に川崎へ、そして1978年に横浜にたどり着いたというのがベイスターズの歴史の前半のハイライトかと思います。一方、後半のハイライトとしては、親会社がマルハニチロさん、TBSさん、そしてDeNAへと変遷したことにあると思います。そういった中で、本日の全体の中で一番のテーマとして掲げている「お客さまにDelightを届ける」という観点で親会社や拠点が変わるというのは、ファンが心から応援できるかというとそうではないと思います。自分たちのまちに一貫した方針で安定して存在するチームに愛着を持ちやすい、そのためには私たちが球団単体として売上、利益をしっかり確保していること、それが永続的に続くことがやはり重要なのではないかと考えています。親会社のサポートは最小限にした中でしっかり事業が成立しているからこそ、その方針がぶれることなく、この地に居続けることができると考えています。そのための方法論として、私たちがこの10年間でやってきたこと、お客さまに楽しんでいただき、また試合に来ていただく、その中で気持ちよくお金を使っていただく、という要素が含まれるのではないかと考えています。

DeNAが経営参画してからの経緯を簡単にご紹介すると2012年シーズンから2019年シーズンのコロナ前までは右肩上がりに観客動員が2倍強に増えました。コロナで一度、観客動員は減りましたが昨年は8割ぐらいまで戻り、2023年シーズンは2019年シーズンを超えるような盛況を目指したいと思っています。売上も観客動員と同様、2019年まで右肩上がり、2020年もなんとか耐え忍び、そこからまた回復をしてきています。営業利益に関しては横浜スタジアムと一体化経営となった2016年から黒字に転じ、20年・21年はコロナの影響で再度赤字に戻りましたが、昨年から黒字に戻りました。まさに昨年あたりが私たちとしても永続的に続く礎になるような出発点かと捉えています。

ベイスターズの持続可能な経営のための考え方

まずBtoCについてお話します。DeNAグループはインターネット企業としてのマーケティングのノウハウをスポーツ界に注入したことが特徴的です。来ていただいているお客さまはどういう方たちか、どういうポイントが心に刺さるか、どういったアプローチをしたら来ていただけるか、ということをやっていました。インターネット企業であればデータが手に取るようにわかります。スポーツ界はなかなか手元にデータを取ることができないのでやらなかったことを、2012年から私たちはデータを取得する方法からしっかりやってきました。その中でお客さまの特性をつかみ、自分たちのなりたい姿を示しながらアクションに落とし込んだ結果、お客さまが増えてきたというのが私たちの所感です。

お客さまに合わせたスタジアムの進化も友好的TOBで加速

球場もお客さまに合わせて、現代に合わせて進化していきました。1978年に横浜に移転して以来、約40年間、全く同じ形の球場を使っていたわけですが、DeNAが経営参画してから小規模な改修を毎年のように繰り返し、だんだんとお客さまに楽しんでいただけるようになりました。2019年、2020年ではより大規模改修を行い様々なお客さまに楽しんでいただけるような仕掛けをしています。例えば座席改修としてベンチシートがただ置いてあるような空間だったところを、色々な方がが色々な楽しみ方をできるようにしてみたり、試合前後に楽しめるような場所を増やしてみたり、オリジナル飲食でスタジアムでしか食べられないフードを楽しんでいただけるようにするなど、色々な方面からスタジアムにいる時間の楽しみを作るといったことを2012年から球団と球場が一緒になり取組みました。

そして2016年に友好的TOBで球団と球場が一体化した後は、より両者が一体となって考えられるような状態になりました。東京五輪が横浜スタジアムに来ることも相まって、この2年間で今までにない規模の投資をして、新たにより多くのお客さまが呼べるような仕組みを作りました。これにより球場にとってもサステナブルな状態になり、球団にとってもより収益が増える黒字体質になりました。選手にとっても球団・球場が安定していることは自分たちの生活の安定にもつながる、三方にとって良い形がコロナ前までに作られていきました。

スポンサーセールスでの新たな取組み

BtoB、スポンサーセールスの話に転じますと、実はベイスターズにDeNAが経営参画した当初、2012年から2015年まではさほど伸びませんでした。これが2016年から伸びが加速し、今ではチケット売上をも上回る伸び方をしています。これには実は2つの転機が関係しています。一つは横浜スタジアムとの一体化経営により、看板などのコントローラビリティが高くなり自由度を増して売れるようになったこと、そしてもう一つは2016年に初めてクライマックスシリーズに進出したことです。これによりスポンサーセールスもアクセルを踏み、「強いチームかつスタジアムが満員になるチームのスポンサーになっていただけませんか」といった提案をしました。スポンサーセールスのアプローチの仕方も単なる看板を売る、というところから、最近では新たな形の取組みもできています。例えばKDDI様とは「スマートスタジアムパートナー」といった形で単純に広告を出していただくところにとどまらず、両社のアセット、ノウハウを使って新規事業を立ち上げました。またウシオ電機様にはコロナのタイミングでスポンサー様として入って頂き、先方の技術、抗ウイルス・除菌用紫外線照射装置を横浜スタジアムの選手エリアに使い、選手の安全を守るという側面でサポートをしていただきました。いかに今までのスポーツビジネスにおけるスポンサーセールスにとどまらない方法をつくっていけるかが、私たちの今の取組みと思っています。

「100年先へ、野球をつなごう。」今後の展望

実はコロナ禍になった2020年、横浜DeNAベイスターズでは社内で新しいコーポレートアイデンティティ、ミッションビジョンを策定しました。ビジョンで「100年先へ、野球をつなごう。」という言葉を入れました。背景としては、球団のこれまでの経緯の中で親会社の変遷もありましたが、さらに一歩引いた視点では、今、野球人口が減ってる中で100年経つとプロ野球が日本で一番栄えてるスポーツではなくなっているかもしれない、世界で見た時も廃れていってしまうかもしれない、といったところにあります。そのような中でいかに100年先に野球をつなげるかを私たちの仕事にしていこう、という考えのもと、このようなビジョンにしました。20年後に名実ともに世界一のスポーツチームになる、そして世界一のチームが野球を100年先にもつなぐために牽引する、そういった目標を掲げています。

これからのサステナブル経営の考え方

100年先のことを考えよう、世界一になろう、ということを決意したことで色々な物事の考え方がここ数年変わってきています。今までは事業の規模に見合った予算をまず作り、その予算を超えるだけの利益をどうやって作っていくか、といった手順で物事を考えていました。もう少し具体的に言うと、セ・リーグの中で何番目ぐらいの給料で、これぐらいの順位になりたいね、何年かに一回優勝したよね、といった表現をしていましたがそれで本当にいいのだろうか?セ・リーグの中で何番といったことも指標として見ていくことは大事ですが、サステナブルかつリーグを牽引していく存在になるのであれば事業を成長させて、そこに適した予算を配分できるようにする、すなわち売上が伸びれば伸びるほどチーム予算を作れるような考え方に変えていなければならないというのが、ここ数年の考え方です。まずチーム予算をどんと大きくしてから売り上げを伸ばす考え方もありますし、売上を大きくしてもチーム予算は一定という考え方もあると思いますが私たちが考える「サステナブルな経営」とはチーム予算は売上とともに大きくしていくことにあります。それこそが最終的にお客さまにも喜んでもらえる結果につながるはずで、そこには売上が伸びる必然性がある、いかにこのサイクルを回していくかが重要と考えています。

事業面ではファンの基盤を拡大させ、世界に広げていく、既存領域も新規事業も作り売上を伸ばしていくというミッションは明確です。チームはDeNAらしい世界最先端の取組みをチーム予算の中でやっていく、教育や組織づくりでも外部と創発し、チーム・組織自体も進化させていく、これが相互に回る状態が本質的に永続的なビジネスモデルなのではと考えています。

加えて、それを実現するためには再現性がある組織である必要があります。例えば、私がいなくなり次の代表取締役になったら方針が変わる、それはサステナブルといえるでしょうか?DeNAグループとして次の人に伝わっても同じ全く同じ打率ではないと思いますが、そのエッセンスが伝わり、うまく回っていく、そういった仕組みづくりをしていきたいと考えています。

結果的にビジネスとチームの目標、相手のことを考えながら実現しうる状態を球場とともにつくり、結果的に成長に向けた投資が可能な状態を作る、私たちはこういった答えがあるから利益をつくっていくのですと言いながら事業運営していきたいと思っています。

テーマは実証実験、まちづくりへ。

そして実証実験の場としてのスタジアム、というテーマにもなりますが、3 万人が集まる横浜スタジアムというボールパークは、色々な先端技術の格好の舞台でもあります。私たちが持っていない技術であっても、どこかの会社さんとご一緒させていただいて、この3 万人✕70試合というキャパシティの中でできることは色々あると思います。スタジアムの隣、横浜市旧市庁舎街区の再開発にも参画していますが、新たな”まち”ができてくる中での横浜スタジアムの活用価値はだんだん大きくなっていくと思います。様々な形で、このまちから「横浜発」のような物事をつくっていければいいなと考えています。ぜひ今後の私たちの動きも見ていただければと思います。

2.元沢 伸夫(株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 代表取締役社長)

私もベイスターズに従事していた時代、木村さんと一緒に役割分担しながら5,6年ほど仕事をさせていただいたのが本当に懐かしく思います。私の方からはプロバスケットボールクラブ、川崎ブレイブサンダースのあゆみについてお話をさせていただければと思います。

2018年に東芝から事業承継しバスケに参入

簡単にクラブのご紹介をします。非常に歴史あるクラブで今から70年以上前、総合メーカーの東芝さんがつくったバスケットボールクラブで、「東芝バスケットボールクラブ」として1950年に誕生し数々のタイトルを獲得した男子のバスケットボール界では名門クラブです。その大切なクラブを2018年に東芝さんからDeNAが事業承継をさせていただきましたnのがちょうど5年前、今は5シーズン目をDeNAとして戦っている状況です。

この5年間でバスケを取り巻く環境は本当に大きく変わったと思っています。2018年に事業を継承したときも、まさかその後にバスケットボールの最高峰、アメリカNBAで、日本人が二人も大活躍するとは誰も恐らく想像してなかったと思います。そして2021年、東京五輪で男子バスケ日本代表が予選を勝ち抜いて出場しました。これはモントリオール以来45年ぶりのことです。実力で国際舞台に立てるような土俵に乗ってきたというのは、実はバスケ業界にとって大きなトピックだったと思います。

今から7年前、2016年にB.LEAGUEが誕生しました。それを皮切りに、日本全国でバスケットボールクラブが盛り上がり、今のバスケットボール市場の急成長につながっていると思ってます。川崎ブレイブサンダースもこの5年間で大きな環境変化が起こっています。事業継承した2018年当初、約2000名の川崎市民を対象にアンケートを取りました。「川崎ブレイブサンダース知っていますか」、試合観戦しているか、応援しているか、ではなく、そもそも存在を知っているかというアンケートを取ったところ8 割弱の方が「知らない」という回答でした。もう70年も川崎を拠点に活動しているのに知られていない、というのが5年前の状況でした。試合会場は約5000人入る会場ですが残念ながら空席が結構目立つ状況でした。非常に強い、面白いコンテンツなのに、会場が満員になっていない、そのような状況でした。

来場者数とスクール事業の急成長

そして今、5年が経ち、もう本当に有難いことに土日は殆ど5000人の会場が満員になるぐらい、沢山のお客さまにご来場いただくようになりました。来場者数はDeNAが経営参画して2年目で大体1.5倍、3年目でB.LEAGUEで一番の来場者数に急成長することができました。とにかくこの5年で多くのお客さまに、まずバスケを観に来ていただける環境になりました。またクラブを応援してくださるスポンサーさんの数が事業継承時は18社だったのが今は200社を超えて沢山のスポンサー企業の方に応援していただけるようになりました。

そして個人的にこの5年間で最も市場環境が変わったと思うのがバスケを習う小学生のスクール生の数です。5年前に事業継承をしたときは30名ほどでしたが、今はもう23年1月時点で1600人を超えて、恐らく今年度中に2000人を超えるのではないかと、これも野球やサッカーのスクール生の数を超えるようなレベルになると思います。バスケットボールは、男子だけでなく女子ができるスポーツというのも非常に大きいと思います。

一番は子ども達に今、バスケットボールが非常に人気であること、野球・サッカーは元々人気ですが、その中にバスケットボールという選択肢がこの5年で入ってきたのは非常に大きい市場の変化だと思います。

ベイスターズの基本思想の承継

急成長してきたこの5年間でしたが、話を少し元に戻しまして、2018年に東芝さんから事業継承させて頂いたところから一番大切にしてるポイントについてお話します。

先程、木村から「コミュニティ ボールパーク プロジェクト」についてのお話がありました。試合が一番のメインコンテンツですが、試合は私たちはコントロールできません。そのため試合を観に来るお客さまに対して、試合以外のコンテンツ、映像、音楽、フード、グッズ、チア、試合前・試合中・試合後のイベント、あらゆるエンターテインメントを総合的かつ高いレベルでご提供して、試合以外のコンテンツで何か一つでも必ず「面白い」と思って帰っていただく、感動を持って帰っていただくことでまた観に来ていただく、これが私の中で「コミュニティ ボールパーク プロジェクト」と理解しています。ベイスターズから川崎ブレイブサンダースに一番のポイントとして引き継がれているのは、その「こだわり」です。本当にファンの皆さんにとって面白い、楽しい、スポンサー企業にとって役に立っている、という質を徹底的に追求してこだわる点が一番本質的な基本思想だと思っています。

事業継承していただいた初年度は、とにかく試合会場に来ていただいた方に楽しんでもらう空間を徹底的に全スタッフで作りました。バスケは子どもたちにも大人気なので、外でバスケットボールができる環境を作ったり、色々なクリエイターたちとコラボレーションをしてフォトスポットを作ったり、毎試合、生のDJが試合会場に入りその時の状況に応じて音楽を使い分けるて音楽でも楽しんでもらう、ハードの演出も含めて色々な特殊効果を使って試合の間にはチアが出て盛り上げたり、会場だけのオリジナルグルメも用意したり、ハーフタイムショーにゲストを呼んだり、徹底的に来てくださった方に楽しんでもらう空間を作らせていただきました。

最初の方は正直苦労しまして、なかなかファンの方に「それいいね」と言ってもらえませんでした。そんな中で、ファンの方々に愛情を持って色々なご意見を頂いて一緒になって作り込んでいただいて、選手とも何回もミーティングをしてシーズン1年目の後半には来場者の満足度が大体95%ぐらいになり、そこから2年目以降は新しいファンの方々を呼び込もう、ファンベースを拡大しようという活動に入っています。この辺りからバスケットボール独自のマーケティング活動にどんどん入っていくのかなと感じております。

デジタルマーケティングを駆使した新規ファン獲得

具体的には3つほどあり、1つはデジタルマーケティングです。2年目以降、新しいファンをもっと増やそう、ファンの方に試合会場に来てもらおうと意気込んでいた時に、早速壁にぶち当たりました。私も野球に従事していたときはメディア、番記者の方がたくさんいて300日ぐらい一緒に帯同していただいて、どんどんメディア露出していただきました。それがバスケットボールはメディアの方になかなか拾っていただけない環境でした。当然、広告予算もありません。なかなかできるPR活動が少なく、川崎ではJリーグ川崎フロンターレさんがもう先行していて、色々な街中の媒体も大体フロンターレさんがもう占められていて、広告露出する場所もないという状況でした。

これで一体どうやってファンの方とのタッチポイントを作っていくのかというところで早速壁にぶち当たったところでデジタルマーケティングを戦略的に仕掛けました。仕掛けたというよりかは、本当に背水の陣でもうここしかなく、YouTube、TikTokという動画系SNSにリソースを一気に振り切ったという経緯でした。バックグラウンドとして来場者の年齢層が低い、選手・スタッフが一丸になってくれている、YouTubeがすごく定着してきた、など色々な要因はありますが、背水の陣をもってここに一気に振り切ったという経緯がございます。

結果としましては色々なところでお話しさせていただいていますが、YouTubeは今リーグだけでなくて、サッカーJリーグ全てのクラブと比較してもフォロワー数が一番多い状況です。TikTokはプロ野球の球団を入れても読売ジャイアンツの次にフォロワー数が多いというところで、野球・サッカーに比べてバスケの市場規模は非常にまだ小さいのですが、デジタルマーケティングの分野だけは突出して強いジャンルになってるというのはご理解いただけるかなと思います。そして単純にYouTube、TikTokを頑張っているという話ではなく、事業の成果にも繋がっていることがポイントです。

YouTubeはいま、新規来場の最大の導線になっています。初めて来場してくださった方にアンケートを取ると、約50%以上の方がYouTubeをきっかけにチケットを買って来場してくださっています。他にも色々な広告・宣伝活動をしていますが、YouTubeだけ突出しています。

私がベイスターズに従事していた頃は、試合を観に来てもらい選手や球団を好きになってもらいSNS登録する、という流れが一般的でしたがそれはもうはるか昔のお話です。今は最初のタッチポイントがやはりYouTube、TikTokになっています。そこでクラブや選手のキャラを好きになって、もう少し応援してやろうということでチケットを買って来場していただくという流れになっています。デジタルだけでなくリアルのフェーズにも入って色々な新しいマーケティング活動でファンベースを拡げています。

「まち」におけるタッチポイントづくり

2つ目の取組みとしましては、「まち」におけるタッチポイントづくりです。今なかなか東京、神奈川でもスポーツを思いきり楽しめる場所が非常に限られています。そんな中で私たちクラブのミッションとしては中長期的に見てバスケを野球やサッカーに並ぶ文化にすることです。そのため主に子どもたちが思う存分バスケットボールができる環境を川崎中に作ろうということで、川崎駅前に独自の施設をたくさん設けてバスケットボールができるコート、ゴールを準備しています。川崎市とも連携して川崎市内の公園にもどんどんバスケットコートを作る取組みもしています。これらも中長期的にファンベースを増やすための大きなマーケティング活動だと思っています。

SDGsプロジェクト「&ONE」

3つ目はSDGsプロジェクト、「&ONE」です。川崎ブレイブサンダースは今、おそらく日本のプロスポーツクラブの中で失敗事例も含めてSDGSプロジェクトに取組んでいるクラブだと思っています。2年間で60以上の取組みを実施させていただきましたが、このポイントは私たちスポーツクラブだけではなかなか成立しない、できることが非常に限られている中で色々な知識や経験、ノウハウを持っているパートナー企業様と一緒になって非常にユニークな取組みを行っている点です。

例えば、味の素様と組ませていただいてSDGsの17の目標全てにチャレンジする2日間、「&ONE Days」というイベントゲームを毎年行っています。ここでは17の目標に照らし合わせたイベント、アクティベーションを味の素様と一緒になって考えて、徹底的にファンの皆さんに楽しんでもらう、知るだけでなく一緒にアクションを起こすというところまで踏み込んだイベントゲームを行っています。

再生エネルギーのトップランナー、UPDATER様とは再生エネルギーで全試合の運営に取組んでいます。神奈川県 相模原にある太陽光発電所のネーミングライツを2年前に取得させていただき、「川崎ブレイブサンダース太陽光発電所」で発電された再生エネルギーで2シーズン前から全試合を運営してます。かつ選手が毎日食事をしたり、体のケアをするクラブハウスの電力も全てここで発電されたもので賄っています。ファンの方にもこの電力を購入していただいて、選手と一緒にこの発電所を一緒に見て回る勉強会もやったりと、神奈川県における電力の地産地消に一緒に取組んでいます。

着なくなった衣類を捨てずに土に変える技術があります。その土を使って、今、私たちのオフィスの屋上に農園を作り、地域の子どもたち、選手と一緒にJAセレサ川崎さんにも協力していただきながらここで野菜を育てる地産地消に取組んでいます。これは選手のアイディアを実現する形で行っております。

このようなSDGsのプロジェクトを色々なパートナー企業と一緒になって取組んでいます。これからますますバスケットボールは成長して盛り上がっていくと思いますので、ぜひ野球・サッカーとあわせてご注目をいただければと思います。

3.西谷 義久(株式会社スポーツクラブ相模原 代表取締役社長)

私からは、これから始まるチーム、SC相模原がその未来に向かってどこを目指し、どのあたりに力を入れていくのか、直近の取組みからお話をさせていただきます。

SC相模原のミッション・ビジョン

SC相模原としては2月から新しい経営体制になるタイミングでミッション・ビジョンを定めました。ミッションは「心を体を突き動かす原動力となり、元気な人を増やす。」、ビジョンは「私達は地域と一体となり、ともに歩き、ともに育ち、互いに誇れる関係性を築きます。」です。これらについては今まで掲げていたものも継承しながら、さらに力を入れて飛躍していくために必要なものとして定めました。特にミッションについてはどの地域に根ざしたプロスポーツチームにおいても考え方のベースは同じなはずなので、それに基づきながら私たちならではの取組みをしていきたいという想いも込めています。

SC相模原のホームタウンのひとつ、相模原市は東京、横浜、そして川崎と隣接しながらも少し特異な場所にあるので、相模原市民のシビックプライド、誇りや愛着といったところに課題を抱えているという現状があります。相模原市の方でもシビックプライドをより改善、向上していくための条例の制定、具体的な取組みを始めています。そして私たちもJリーグの3部に所属するクラブとして事業やチームの成長ストーリーが地元に大きな活力をもたらし市民の誇り、愛着、象徴となり、まちの発展に貢献していくことを目指していきたいと思っています。

そのためには一貫したコンセプトで魅力的な観戦体験、非日常のライブエンターテインメントをホームゲームでしっかりと作り上げていく。高揚感を届けながらチームとしても着実にステップアップを果たしていくことが必要だと思っています。その上でホームゲームの観客動員数が増えたり、一緒になってまちを盛り上げていただけるパートナー企業を増やし、地元の中でも中心的な盛り上げの存在になっていければ、地域住民の方々にとってアイデンティティ、シビックプライドの源泉になっていけるのではないかと考えています。地元のソフトインフラとして、未来のまちづくりに繋がる、人々の輪を私たちが起点となって広げていけるよう、貢献ができるようなりたいというのがベースの考え方です。

非日常(ホームゲーム)と日常(まちづくり)、2つの戦略

戦略としては、非日常としてのホームゲーム、日常としてのまちづくり、2つあります。

ホームゲームにおいては高揚感のある観戦体験を作るということです。私たちのコンセプトで「ENERGY FOOTBALL」というものを掲げており、一貫性をもって取組んでいきます。日常のまちづくりにおいては地元の未来が必要とするものを作る、という考え方で、未来において良いもの、必要とするものを残していくような仕事をしていこう、という考え方です。

ホームゲームのコンセプト:「ENERGY FOOTBALL」

ホームゲームの「ENERGY FOOTBALL」というコンセプトは、観戦体験の全てにおいて一貫して磨き上げるということが私たちの目指す姿です。ご来場いただいたお客さまの日々の活力、エナジーを得られるような体験を作っていく。志高く勇敢で大胆なフットボールを体現しながら、更なる高揚感を促すイベント演出、前後の情報発信、グッズ、飲食といった全てにおいて一貫して運用することを目指しています。DeNAの他のスポーツチームの様々な事例も吸収・継承しながら相模原にあったやり方で取組んでいます。

そのような中でJ3からのステップアップを目指しています。やはり強さ、チームの魅力がないと事業はなかなか伸びていかない、インパクトを持たない、みんなに認めてもらえないと考えています。まちのシビックプライドの源泉になるような姿に近づいていくためにはチームのステップアップは避けては通れません。成長ストーリーにおいては今のフェーズが最も重要だと考えています。

そのためフットボールコンテンツの整備方針を経営サイドからしっかりと定義し、枠組みを設計をして運用していくという形にしています。まさに今シーズンから中長期の展望に沿った戦略的な取組みを組織的に行っていくために方針を整備しています。

フットボールコンテンツの整備方針

チームの競争力を高める要素は大きく5つあると考えています。

まずは「スポーツディレクション」、そして「テクニカルパフォーマンス」、「選手編成」「コンディショニング・メディカル」、「オペレーション」です。

まず「スポーツディレクション」についてです。データ分析はサッカーの世界でもどんどんトレンドになってきていますので、人材、ノウハウをどんどん取り入れて、起きている事象を客観的に正確に捉えていくということが非常に重要になっています。そういった取組みを私たちの中でフットボールのKPIとして指標管理して、しっかりと改善のプロセスに活かしていくことができる体制を作っています。

「テクニカルパフォーマンス」においては新監督に戸田和幸を迎え、PDCAサイクルを論理的に回していくということと、適材適所のスタッフを細やかに配置しながら、緻密に仕事を進めていくためにスタッフ数も増やして選手の成長を促し、「ENERGY FOOTBALL」を体現するチームに段階的に成長させていくことを目指して重点的に組成しました。

「選手編成」においては、心身ともにフレッシュで成長余地が大きく、「ENERGY FOOTBALL」を体現するために、これから成長していけるような選手たちで構成する方針に転換しています。プロとしての分厚いキャリアを持っていない選手たちで、このシーズンからスタートしていくわけですが、彼らがいかにこの世界でステップアップして、パフォーマンスを発揮させていくか。彼らが何者かがまだはっきりとしない中でも、彼らの価値を証明していくような仕事をチームのみんなで目指して、その成長ストーリーを楽しんでいただけたらとも思います。そういった意味で、大学や下部リーグからの選手を重点的に採ってます。

「コンディショニング・メディカル」に関してはチームラウンジを整備し、栄養管理された食事の提供やメディカルスペースを拡充しています。インフラにおいても着実に整備していくことが重要と考えています。そういったオペレーション面も含めて良い状況を組織的かつ継続的に取組んでいく姿にしていきたいです。

またアカデミー事業も整備をしています。サッカー事業の非連続的な成長という観点で、やはり選手の海外移籍といったところでの移籍金収入を新しい収益源としてコンスタントに得られるような状況をつくっていくことも重要なポイントです。それが狙えるような状況もしっかり整備をしなければならず、そのためにはインフラや仕組みが必要になります。この辺りは毎日継続して積み上げていきたいと思っています。

「まちづくり」のコンセプト:「地元の未来が必要とするものをつくる」

最後に、日常の「まちづくり」のコンセプトとして、「地元の未来が必要とするものを作る」ということについてです。「未来」というのは私たちはニアリーイコール「子ども」と考えています。お子さまやご家庭へのサポートプログラムを随時開始したいと思っています。今シーズンは「こどもフリーパス」として、地元のホームタウンの小学生は事前に登録をいただいた形でチケット代無料で私たちの試合を見ていただける形にしています。そのような取組みをしながら地元ももっと盛り上げていく、経済的な活性化、地元企業がもっともっと盛り上がっていく。そういった取組みにできるように新しいビジネスクラブを作ってみたり、相模原駅北口エリアの再開発プロジェクトの検討にも積極的に関わっています。いまはまだお伝えできない計画もいくつかありますが、良いニュースをチーム・事業ともにお届けしてDeNAのスポーツチームの末っ子として成長できるよう頑張りたいと思います。

ラップアップ:代表者トークセッション

-對馬

ここまでの話で、それぞれのクラブがしっかり自律運営をしながら、連携し、それぞれ拡大させて、また新しい付加価値を生み出していくということが伝わったかなと思います。

連携の部分についてよくご質問をいただきますが、3クラブの経営陣が週に一回集まりミーティングをして様々な軸でそれぞれのクラブの状況をシェアした上で、それぞれがインプットし合う時間を毎週設けています。これが私たちがスポーツ事業を経営をする上で非常に重要な時間になっています。

全体戦略を1枚でまとめると、まずはコンテンツ・興行においてお客さまの賑わいを作ることをスタートとし、その賑わいを私たちが主体的に運営するスタジアム・アリーナで爆発させる、それをさらにまち、地域の日常の暮らしにまで広げていく、ということをやっています。

また、まちの中でのお客さまとのタッチポイントも戦略的に増やしています。そこで新しいお客さまに触れて、ファンになっていただき、私たちのコンテンツにさらに触れていただき、スポーツコンテンツならではの強固なコミュニティーをつくっていこうというのが、私たちの骨太の全体方針になります。この方針に照らして横浜、川崎、相模原においてスポーツコンテンツの周辺として、まちづくりまで広げていくという考え方で、「スポーツの力で”ひと”と”まち”を元気にする」というビジョンを掲げています。

質疑応答

①神奈川を基盤に、個の領域でファンを増やしていくためのDeNAグループならではの取組み、提供価値で最も重要なポイントは何ですか?

-木村

プロ野球は保護地域というルールがありますが、ベイスターズは神奈川県全体を対象にできます。そしてDeNAの一番の強みは新しいことに取組めることだと思いますが、一言に神奈川県といってもホームでありながら結構広いので横浜スタジアムに来られる方は平日は横浜市周辺の方が中心かと思いますし、土日を含めても交通の便がいいところの方になってきます。先程、私たちのコンテンツを世界的なコンテンツにしていきたいと述べましたとおり、その場にいる方も、そうでない方もコンテンツを楽しめる環境をいかに作っていくか、というところがDeNAグループならではの取組みになると思います。またオンラインの領域であってもDeNAだけの取組みではない部分もあります。そういった協業での取組みもDeNAグループならではの強みになると思います。

-元沢

DeNAが野球・バスケ・サッカー3つのプロスポーツチームの事業運営をやっているからこそ、相当高いレベルでナレッジの集積、メソッド構築ができる状態になったと思います。野球、バスケだけだと少し足りない、サッカーがとても大事で、例えば「コンディショニング・スタッフ」でも3クラブの連携により相当なノウハウが溜まると思いますし、スクール事業、デジタルマーケティング領域も同様だと思います。3つのプロスポーツチームの事業運営クラブだからこそ蓄積できるナレッジがあります。今後、新しいサービス展開をどんどん展開できるような土俵にようやくなってきたのではないかという感覚をもっています。

-對馬

神奈川ということに限定してお話すると、マーケティングする上でエリア的にも重なる部分ももちろんありますし、組織的な面でも人材の交流が非常にしやすいというメリットがあります。私たち社内のメンバーが縦横無尽にそれぞれのエリアを回り、その場でノウハウを共有するといったことは日常的に行っています。そのあたりは私たちの独特な強み、特長だと思います。

②(大学生の方からのご質問)DeNAのスポーツ事業で働くために今後必要になる力とは何でしょうか?

-西谷

野心の塊はやはり大事だと思います。試合、ホームゲームも含めてリモートワークとは少し状況が違うので心身ともにタフさは必要です。自分がどうなりたいのかという野心が明確に持てていると、よりパワーも出ます。

-對馬

どこのチームで働く場合も一緒かとは思いますが、私たちは「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」というDeNAとしてのミッションを掲げています。お客さまの期待を超えるDelightを届けるということを考えると、イノベーションを生み出す側でなければいけない、ということは常々考えています。故に野心的にチャレンジを続けることが、スポーツ業界にいることの存在価値だと思っていますので、そういう気概を持っていただければ一緒に働けるのではないかと考えています。

-木村

スポーツビジネスはお客さまを喜ばせることが大前提としてあり、そのためには社員が本当に楽しみながら仕事ができていることが大事で、そういう方たちが集まるといい組織になると思います。本当に楽しめる方に扉を叩いてもらえると嬉しいですね。

③競技地域を越えた事業展開の中で、人材の流動性をどのように担保していますか?

-對馬

皆さんの想像以上に人材は異動・出向していますし、想像以上に横断組織でのコミュニケーション、ノウハウ共有、ディスカッションを多くしています。社員のキャリアは自分で考えられる領域は限定的ですが、人から示唆を受けてキャリアが開けるという可能性は非常に大きいこともあり、3つのプロスポーツチーム間の人材連携や異動に対するハードルは低いと思っています。次のキャリアでどういう経験が積めるか、将来的にどういう道に繋がるかっていうことをしっかり問うていくことで、人材の循環が可能になると思いますし、そういった実績が多々あります。そういった思想を前提に、3つのプロスポーツチームの中での人材連携や横断組織からのサポートが縦横無尽に行われてることがDeNA SPORTS GROUPの特長です。

-元沢

恐らくDeNA全体のカルチャーかもしれませんが、ルーティン業務が少ないので踏襲するというよりかはイノベーションを起こすような新しいプロジェクトをどんどん推進する業務が多いと思います。そのためこれまでの経験則だけではない新しいやり方を作るという意味では異動がしやすい環境だと思います。

-木村

DeNAは南場がいつも「エースを引き抜いたら、その部門は成長する」というようなことも申している通り、属人的にならずに組織を回していく、年齢や経験に関わらず、組織のフェーズに適した人材をうまく入れていく、といった考え方の会社だと思います。

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DeNA SPORTS GROUPおよび各競技にて
これまで行ってきた取り組みをご紹介します。

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