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2025
02
/07
カンファレンスレポート『DeNAが見るスポーツ産業とまちの未来』
産業の発展を見据えたDeNA流“スポーツタウン構想”
スポーツ産業課題へのアプローチは“しっかりスポーツ事業で稼ぐ”
チーム運営と事業経営が強く連携する組織
スポーツ接点の拡大は“前例に捉われない”
“子どもたちがスポーツをする場”の提供は我々の責務
パートナー企業と今までにない企画をつくる
2025年2月7日(金)に開催されたカンファレンス「スポーツビジネスジャパン コンファレンス2025」(主催:日本スポーツ産業学会/株式会社コングレ)に、スポーツ・スマートシティ事業本部 本部長の對馬 誠英(つしま まさひで)が登壇。
「DeNAが見るスポーツ産業とまちの未来」と題し、DeNAが考える持続可能なスポーツ産業の在り方と、スポーツが創るまちの未来像についてお話ししました。
對馬の講演内容を一部編集してお届けします。
産業の発展を見据えたDeNA流“スポーツタウン構想”
DeNAは、2011年に横浜DeNAベイスターズの運営権を取得しプロ野球界に参入をいたしました。その後、2016年に野球の本拠地である横浜スタジアムをTOBし、箱とコンテンツの一体経営をしております。
2017年に、さらにスタジアムの外側、まちに広げていこうということで、スポーツタウン構想を発表しました。
また、競技と地域を広げるという意味で、2018年から川崎ブレイブサンダースというバスケットボールチームを東芝さんから承継し、そして2021年から相模原の方でSC相模原というJ3のサッカークラブの経営に参画をしております。
横浜、川崎、相模原という神奈川における三つの政令指定都市においてスポーツ事業を展開をしておりますが、スポーツというのはやはりキャパシティビジネスであり箱物の限界に達しつつあります。事業をさらに拡大をさせるという意味で、現在、取り組んでいるのがスタジアム周辺街区に賑わいを創出するまちづくりです。
スポーツ産業課題へのアプローチは“しっかりスポーツ事業で稼ぐ”
前述の通り2011年以降、複数の競技ならびに複数の地域をまたいでスポーツ事業を展開してきました。
その中でスポーツが持つ普遍的な力や、その周囲に取り巻く課題を感じてきました。
スポーツはインフラそのものです。人の生活を支え、まちを支え、人をつなぎ、あらゆるものの媒介になる点が、他にはないスポーツの強みです。
さまざまな文献でも、スポーツがあるまちとないまちで平均寿命が異なるというデータもありますが、人とまちを豊かにする力がスポーツには宿っていると切に感じています。
一方で、業界にはさまざまな課題があると感じ、こちら(下スライド)に一部を簡単にまとめています。経営面においては、親会社に依存していると親会社の状況によって経営の基盤が揺らいだり、方針が流動的になったりします。また、市場格差によって、選手の国外流出というのはいろんな競技で起こっています。
我々の事例でも、メジャーリーグにエースピッチャーや主力選手が渡った際、飛行機に10時間乗ったら年俸が何倍にもなるということがありました。選手がチャレンジをすることは喜ばしい反面、事業に取り組む側としては、同じスポーツをしているにもかかわらず、年俸がこれだけ違うという点は反省すべきだと強く感じています。
これらの課題に対するアプローチとしては、この右側の3つ(上スライド右側)が大きなポイントです。
まずは持続可能で強固なチーム経営をしてしっかり事業で稼ぐ。そしてその稼いだものを将来の成長に対して投資をする。また1つのチームという立場であっても中長期的な視点で人とスポーツとの接点を継続的に作っていく。この3つは絶対外せない重要なことだと感じています。
チーム運営と事業経営が強く連携する組織
我々のスポーツ事業の特徴は何か?と聞かれたら、まず出てくるのがこちらの図にあるようにチームを支える強固な事業体制を作り、利益を上げ、それを魅力的な強いチームを作るために投資をするというサイクルを愚直に回していくということが骨太の方針です。
これは我々のスポーツチーム全てにおいて根幹に流れる考え方の1つです。
魅力的な強いチームを作るために取り組んでいることについて左の写真をご覧ください。(下スライド左側)毎年横浜DeNAベイスターズのキャンプが2月1日から始まるのですが、その前日の夕方1月31日に、選手並びにスタッフ全員が、ホテルの一番大きな部屋に集まってミーティングをしています。
事業を強くするために選手スタッフは何をするのか?チームを勝たせるために事業サイドは何ができるのか?といった目線合わせを全員でやるというミーティングです。これは我々が2011年に球団を事業承継して以降、毎年やっています。最初の頃は選手もピンとこず、なかなか協力体制が築けなかったと聞いていますが、今は選手も、事業サイドと同じ意識でプレーに臨み、事業のことを気にしてくれていると感じています。
魅力的な”強い”チームづくりの2点目です。これはIT企業らしい点かと思いますが、かなりのAIエンジニアや工数を投下してチームの強化に当てています。選手のプレーに対するフィードバックや、チームの編成方針に対する情報提供などをAIによるデータ化によって行っています。つい先日の2月5日にAIのカンファレンス「DeNA x AI Day ‖ DeNA TechCon 2025」をDeNA主催で行い、そこで担当のエンジニアが詳細に紹介をしています。アーカイブで動画が掲載されていますので、ご興味のある方はぜひご覧いただければ幸いです。
参考:「DeNA TechCon 2025」アーカイブ動画 【DeNA × AI Day】DeNAスポーツ事業戦略とベイスターズAI強化プロジェクト
事業運営については、データに基づいた顧客管理を徹底的に行って施策を行っています。やっていること自体はそんなに新しいことではないですが、施策の数やPDCAのスピードは早いと思っており、1年後ではなくて、1カ月後のイベントに反映をさせるといったスピード感で興行に対する打ち手を講じています。
また、ハードへの投資においては、2019年と20年に大規模な改修を行っています。横浜スタジアムはそのタイミングで約6000席の増席を行いました。毎年何らかの増改修をしていて、来るたび来るたびに新しい観戦体験を楽しみにご来場いただけることを重要視し、投資を繰り返しています。
また、スポーツはキャパシティビジネスですので、事業で伸ばすという点では外側に目を向けようと、周辺のベニュー開発にも積極的に取り組んでいます。野球のホームゲームは約70試合しかありませんので、残りの290日も、賑わいを作っていくことを意識しています。また、試合がある時間だけではなく長く滞在をしていただいて、しっかりビジネスにつなげていこうという視点で施設作りを行っています。
このような思想は、横浜DeNAベイスターズをもとにしながら、川崎ブレイブサンダース、SC相模原へと受け継がれています。
スポーツ接点の拡大は“前例に捉われない”
次に、スポーツ接点の拡大というテーマで事例をご紹介します。
新しいファンを獲得していくという話ですが、我々が事業承継したばかりの頃は横浜スタジアムの半分ぐらいが空いている状況だったため、まずはお客さんを呼びこむことに取り組みました。いろいろなマーケティングデータを取る中で、関内は飲食店が多く、夜は居酒屋が賑わっているということが明白でしたので、ではもう横浜スタジアムをひとつの大きな居酒屋と捉えて、横浜スタジアムに来て飲んでもらおうという発想で取り組みました。この時にできたのがBOXシートです。今だとどの球場にもいわゆる「グループ観戦できる席」があると思うのですが、当時は新しい施策として非常に好評で、居酒屋のようにコミュニケーションが活発になる場所として使ってもらえました。
一定の集客が見込めるようになった翌年には、女性やファミリーといったターゲットに絞ったさまざまな施策にも取り組みました。BOXシートも靴を脱いで上がれるように改修し、リビングBOXシートという形でお子様もゆっくり楽しめるような環境を整えていきました。
ファンクラブ会員の女性会員数も我々が取り組み始めてから4年間で10倍に拡大し、新しいお客様に裾野を広げて事業が成立していると感じています。
またDeNAは長くエンターテインメントビジネスをやっているため、さまざまなIP企業様とお取引があります。そのご縁を生かし実現したのが2023年に行われたポケモンの世界大会とのコラボです。実際に選手がポケモンのキャラクターとコラボしたヘルメットをかぶって試合をしました。最近は、イベント限定のユニフォームを作ってそのユニフォームを着て試合をするということが当たり前になってきていますが、ヘルメットまで変えるのかといろんな球団の方から驚きの声をいただきました。
これまでの前例に従うとなかなかできなかったことだと思います。前例に盲信的に従うのではなく、目的を持って、そのルールの限界までチャレンジをする。それによってそのファンの裾野を広げようと、信念を持って繰り返し行ってきました。
“子どもたちがスポーツをする場”の提供は我々の責務
続いて競技振興についてです。
野球は、どのスポーツよりも子どもたちの競技人口が減っていることが非常に大きな課題です。また、子どもの運動能力低下も叫ばれているため、そういった背景を受けて、野球の楽しさを伝える活動を継続的に行っています。
次に川崎ブレイブサンダースの事例です。子どもたちにとっては、バスケットゴールのリングにボールを投げる経験をするかどうかは非常に重要だと考えており、スクールを開校し続けてきました。承継した当時は30名程度だった生徒数は7年経って2500名を超えるところまで拡大をしてきました。
また、バスケットボールの場合は公園など街中にフリーゴールが設置されていることもありますが、屋外では近隣への騒音問題などが課題となっていますので、子どもたちが体育館で思いきりバスケットボールができる環境を提供するというのは我々の責務だと感じています。
スクールに限らず、川崎市と連携をしながらバスケットボール、スケボー、ダンスといったスポーツができるような場を提供しています。
SC相模原で行っているプロジェクトのご紹介です。SDGsなどの一般的な取り組みとは少し趣を変え、地元の社会課題解決に取り組むということを枠組みにしていることがこの活動の特徴です。
相模原市ともいろんなディスカッションをさせていただき、今の相模原の課題を議論をする中で、子どもの教育、ウェルビーイング、環境保全という3つに軸を絞った活動を継続しています。
これまでもさまざまな社会貢献活動をしてきましたが、資金面の問題もあり、持続しないケースがありました。そこで、地元に対してコミットするということを明確に打ち出したところ、相模原市に本社を構えている上場企業様2社からトップスポンサー契約をいただき、ご支援を受けて、続けているプロジェクトです。
どういったことをやっていくのかなど、パートナーさんと議論しながら運営をしています。
パートナー企業と今までにない企画をつくる
最後に、「パートナー企業との価値共創」について事例をご紹介します。
取り組みを持続可能にし、かつ発展的なものにするためには、資金が必要です。故にパートナー企業様の存在はとても重要だと思っています。
DeNAは、傘下に置く3つのスポーツチームを横断する形で組織を組成しており、お客様に面しながらアクティベーションを設計しています。
いくつか事例をご紹介します。
1つ目はマルハニチロ株式会社様です。横浜DeNAベイスターズの元親会社というご縁から、3クラブ横断のオフィシャルパートナーとして我々の活動をご支援いただいています。
食を通じたアスリート支援を通じて、より多くの方に魚食文化の魅力を伝えたい、などの目的から、選手の宿舎や沖縄のキャンプなどにお魚を届けていただいています。
また、子どもたちのさまざまなイベントでは、フードサンプリングもしていただいています。
続いて、三井住友海上火災保険株式会社様の事例です。自転車に乗るときのヘルメットの着用が努力義務化されましたが、全国平均の着用率に対し、神奈川県は低いというデータがあります。そこで、右下(下スライド右)にあるような横浜DeNAベイスターズのロゴを配したヘルメットを作り、自転車用ヘルメット着用を促す啓発活動を検討しているところです。
アクティベーションの対象を広げながら、今までにはない企画をどんどん考えて、日本のスポーツ界に取り組みを投じていきたいと思っています。
さらに、影響の輪を広げるという意味で、我々が着目をしているのが、基金の設立と運用です。ボストン・レッドソックスなどを傘下に持つフェンウェイスポーツマネジメントさんが2002年の基金の設立以降、1億ドルを超える寄付金を集め、6千を超える非営利団体に寄付されています。
寄付先は野球振興に関わることから、小児がん、経済的に支援が必要な家庭への支援といった、幅広い取り組みにこの基金が使われています。
まさにスポーツチームが、スポーツIPとして持つ力を活用しながら社会のインフラになっている特徴的な事例です。我々も早くそういう存在になりたいなと思っているところです。
一番強調したいのは、やはり事業としてしっかり成長させたいという点です。スポーツは長らく体育の延長線上で、稼ぐということに対しては正面から向き合ってこなかったところがあるんじゃないかなと感じています。そうこうしているうちに欧米との大きな格差が生まれました。我々のような事業者が愚直にそこに取り組んで、しっかり事業として成立させ、将来に向けて投資をしていくということが重要なのだと思っています。
また、個社でできることには非常に限界があります。同じ志を持つ皆様とさまざまな情報交換、切磋琢磨をしていきたいと思っておりますし、業界全体を盛り上げていければというふうに思っています。
DeNA SPORTS GROUPおよび各競技にて
これまで行ってきた取り組みをご紹介します。